Volvo V70 Bi-Fuel
1999年03月19日
キャラクター&開発コンセプト
天然ガスとガソリンを共用
今回試乗したのはボルボの天然ガス自動車。ガソリンに代わる燃料には様々なものが挙げられているが、天然ガスは、CO2排出量が2~3割減、NOx排出量が7~8割減というクリーンさで注目されている。またエンジン自体はガソリンエンジンやディーゼルエンジンをそのまま使用することが可能で、大掛かりな開発を必要としない。このためアメリカでは昨年8万5000台の天然ガス車が登録されている。
一方、天然ガス車は高圧のガスを搭載するため、大量に燃料を載せることができず、航続距離が短いのが欠点だ。そこで今回のボルボV70バイフューエルでは、ガソリン車としての機能をそのまま残し、航続距離200kmの天然ガスと切り替えて使うことで、合計700km近い航続距離を可能とした。さらに、天然ガス燃料はインフラが整っていないため長距離移動が難しいが、ガソリン併用により、燃料の補給も容易になる。近距離利用ではクリーンな天然ガスを、遠出の場合はガソリン併用で楽々、というわけだ。
ちなみに天然ガスとはいわゆる都市ガスとしてよく利用されるもの。メタンを主成分とする高カロリーでハイオクタンの可燃性ガスであり、石油から精製されるプロパン(LP)ガス(タクシーなどが使用)と違って、天然埋蔵のガスのことだ。化学式ではメタンはCH4、プロパンはC3H8となり、この数字からも燃えた後のCO2の少なさがわかる。
価格帯&グレード展開
ベース車両に比べて85万円高の495万円
ベース車であるV70(標準車)の85万円アップとなるが、内装が上級車同等となり、さらにアルミホイールが標準となっている。さらにアップ額の半額(最大42万5000円)がクリーンエネルギー自動車普及事業補助金として支給されるため、実質的なアップはかなり縮まる。バイフューエルを航続距離を延ばし、燃費を向上させる追加装備と考えれば、お買い得ともいえる。ミッションや安全装備は全くベース車同様でイモビライザーも付く。ただし、補助金は自治体や法人、または5年前のクルマの代替えで月1000km以上走る業務用にしか下りない(しかも厳密な審査がある)。
パッケージング&スタイル
荷室に巨大なガスタンク。エステートだが、実質はセダン
V70はよくできたワゴンだが、V70バイフューエルの問題は92リットルのガスタンクが、荷室(リアシート後方)に陣取っていることだ。これによって荷室の半分がつぶれている。しかも丸い形のままなので、上部に物を載せるのもままならない。それでも後部ラゲッジは奥行きが70cmほどあり、荷室アンダーボックスも生きている。乗車人数分のゴルフバッグを積むのは無理だが、2人でゴルフに出かけるには不自由しないだろう。日常的に大きな荷物を載せない人なら、これで十分ともいえる。ただ、エステートとしての使い方ができないのは割り切るしかないだろう。
燃料切り替えスイッチと2つの燃料計が相違点
運転席に収まっても、特に変わったことはない。ステアリング左側に「Gas」と書かれたスイッチがあり、これでガソリンとガスを切り替える。エンジン始動時にはガソリンが使われる(ガソリンを時々使って古くしないため)というが、気づく間もなくガスに切り替わる。走行中にもこのスイッチで自由に替えられるのがおもしろい。燃料計は左側が73リットルのガソリン用で、右側が20m3入る天然ガス用。天然ガスが文字どおりガス欠になると、自動的にガソリンに切り替わる。
ではここで天然ガスの経済知識を。まず天然ガスはガソリンに対して1.3倍の熱量を持つ。1m3はほぼガソリン1リッターと考えてよく、この価格はガス会社との契約によるが100円前後とのこと(ちなみに配給設備の必要な家庭では160円前後)。V70バイフューエルはガソリンでいうと20リッターのタンクを持っていることになる。で、実測燃費は9~10km/m3あたり。ガソリンで使った場合だと7~8km/Lというところだから、燃費的には1.3倍の熱量となる。ただしガソリン価格の安い現在では、ほぼ同等か、若干安めにすぎない。しかし前述のように排気はクリーン、そして埋蔵量的にもガソリンより多く、産地が中東に偏らず分散している天然ガスは、ガソリンの代替燃料としては悪くない選択のようだ。
基本性能&ドライブフィール
エンジンルームは一見何の変化もない
タンク内では200気圧ある天然ガスを、減圧しながらエンジンルームまで持ってきて、マルチポイント・インジェクションで、インテークマニホールドへ流し込むという仕組み。あとは通常のガソリンエンジンと同様に圧縮して爆発させるわけだが、天然ガスはオクタン価が高いため、天然ガス専用車の場合は圧縮比を高めるチューニングが施される場合が多い。しかしボルボV70バイフューエルではガソリンと共用のエンジンのため、圧縮比は換えられない。それでもガソリンの144ps/21.0kg-mに対して、122/18.4kg-mのパワーがでており、実用上の問題はない。
ほとんど遜色ない天然ガスの走り、実用上全く不満なし
始動してもエンジン音、振動等、ガソリン使用時と何ら変わることはない。走り出してもそれは同じで、構えて乗ったが、拍子抜けしてしまった。ちょっとエンジン音がうるさいが、これはガソリンに切り替えても同じ。スイッチを切り替えて試したが、加速感もほとんど差がない。いずれにしてもベース車自体がそう走るクルマではないので、普通は全く気にすることなく乗れるだろう。唯一ガソリンとの差がわかったのは、高速での中間加速。100km/hあたりからの加速ではガソリンの方が力強く、エンジン回転の伸びが鋭い。まあこれは、そういう加速が必要になったら、スイッチを切り替えればいいだけの話なので、実用上全く不満とならないだろう。
ガスの充填も専用スタンドで行ってみたが、ガソリンを入れるのと何ら差がなく、ごくスムーズに数分で終了。ただフルに入れたはずだがなぜかメーターの針は振り切らない。このあたりがちょっと不思議なところだ。
ここがイイ
現在日本で販売されている天然ガス車で唯一のバイフューエル車であること。天然ガス車が良いといわれても、200km 程度しか走れない上、天然ガススタンドの数が極端に少ない現状(今年1月末で全国に64ヵ所)では、個人ユーザーにとってまるで実用性がないに等しい。他に日本車ではアメリカ生産のシビック天然ガス仕様が340kmの航続距離を誇るが、いずれにせよ遠出は無理。常に天然ガススタンドを探し続けねばならず疲れてしまう。しかし、バイフューエルなら全く普通のクルマとして、あるいはそれ以上に足の長いツアラーとして使用できる。
ここがダメ
インフラ整備の遅れ。とはいえ天然ガススタンドの不足は、3131台という今年2月現在の天然ガス車の普及台数から考えれば致し方ないところ。それより、個人には補助金を出さないとか、バイフューエルだから税金面でのメリットがつけられないとかいった、お役所側の問題は何とかならないものか。プリウスはハイブリッドでも取得税が安くなったりしているのだが。これはトヨタの力? プリウスは電気だけでは走れないが、このクルマは天然ガスだけでも走れるわけで、その点ではもっと優遇されてもいいと思われる。
総合評価
プリウス以来のいいもの見つけた、という感じ。前述のようにクリーンな排気(硫黄酸化物や黒煙はほとんど排出されない)となる上、動力的にも不満なく、さらに天然ガスはガソリンより埋蔵量が多いとなれば、プリウス以上に現実的な代替エネルギー車ということになるだろう。天然ガス車は国の施策では2010年までに100万台を普及させたいらしい。特に黒煙モクモクのトラックなどディーゼル車を天然ガス車に置き換えていく意向のようだ(この場合、シリンダーヘッドを改良してプラグをつけるなど結構大がかりな改造になる)。そのころまでに燃料電池車が現れていると状況は激変しそうだが、それでもトラックなどには使われ続けるだろう。
日本のメーカーは商用車(バン)では7台を発表しているが、乗用車には無関心のよう。バイフューエルで「エコ」を前面に打ち出せば、今の世の中なら結構商売になりそうな気がする。とはいえクルマが先か、スタンドが先かの問題は残る。スタンドは2000年度末には全国で200ヵ所になると言われているが・・・・。
公式サイトはこちら http://www.volvocars.co.jp/