相場展望3月31日号 米国株: トランプ関税は(1) 家計を貧しく (2) 経済減速と、二重苦へ導く 日本株: 海外短期投機筋の損失覚悟の売りで、超下落幅を予想

2025年3月31日 12:26

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/27、NYダウ▲155ドル安、42,299ドル
 2)3/28、NYダウ▲715ドル安、41,583ドル

【前回は】相場展望3月27日号 米国株: 今や、米国が世界の「地政学リスク」の仲間入り 日本株: (1) 自動車関税25%表明 (2) 38,000円乗せで、売りに注意

●2.米国株:トランプ関税は米国に(1)家計を貧しく(2)景気減速と、二重苦をもたらす 共和党は2026年中間選挙、次期大統領選・議会選挙でボロ負け予想

 1)自動車関税25%引き上げで、米国の関税収入は年15兆円が得られる

 2)自動車関税で、果たして米国において工場と雇用が増えるのか?
  ・トランプ氏が主張する、輸入車に関税を課す必要性。
    ・外国からの価格の安い輸入車が大量に輸入されるされるため、米国内の工場や雇用が外国に流出している。
    ・関税を課すと、企業が米国に戻ってきて工場で生産するため雇用も増える。米国で生産された車は関税は一切、課されない。
  ・果たして、トランプ関税で米国に工場が増え、雇用が増えるのだろうか?疑問がある。

 3)結局、米国民は今までより高い車を買うことになる
  ・トランプ氏は「米国の自動車産業はかつてない繁栄をする」と主張するが、「本当に米国自動車産業は繁栄するだろうか?」はなはだ疑問だ。
  ・米国の2024年の自動車の総販売台数は1,590万台で、そのうち輸入自動車は約800万台で約半分を占める。
  ・米国自動車メーカーであるGMやフォードでさえ、カナダやメキシコで生産して輸入して販売している。
     米国での販売に占める輸入車依存度
      GM        45%
      ストランティス   45%
      フォード      20%
      フォルクスワーゲン 40%
      トヨタ       50%
      ホンダ       35%:カナダ・メキシコで生産、日本からはゼロ
      SUBARU      45%
      マツダ       81%
   米国民は輸入車がなければ車を所有できないほど、輸入車への依存が高い。

  ・たとえ、米国内で自動車生産に取り掛かったとしても、生産できるのは早くて2~3年、一般的には数年、先のことになる。その間は、輸入車の依存度は現状のままで継続せざるを得ない。その輸入車は25%の関税を課せられており、価格転嫁された高値でユーザーが購入することになる。

  ・関税による値上げ幅は、6,000ドル~1万ドル以上(90~150万円超)が予想されるという見方がある。

  ・さらに、何年か以降に米国で生産増加された自動車は、米国の高賃金を織り込んだ生産コストで販売価格が設定されることになる。

  ・いずれにしても、自動車のユーザーにとって高価格の車を買うことになる。

  ・高値となった車に見合う賃金上昇がないと、消費支出は減り、米国経済の成長にとってマイナスとなる。

  ・トランプ関税は、米国民の家計負担を増やし、消費支出を減らす。それは、米国経済成長率をも鈍化させる。

 4)米国経済に「逆効果」も
  ・トランプ氏は自動車関税は、米国を開放し「米国を強くする」と主張する。ところが、「米国に悪影響」となる可能性がある。理由は、25%自動車関税で1台当たり90~120万円価格が上昇する。GMでさえカナダやメキシコからの輸入車が45%を占め、米国内での生産台数は半分程度にしか過ぎない。フォードも輸入車は20%である。米国で販売される自動車の約半分しか米国内で生産されていない。

  ・米国内で新たに生産された場合、高い労務費を支払うため生産コストは上昇する。自動車会社が適正利潤を得られる販売価格を設定した場合、消費者は高い労務費と高い工場建設コストを含んだ価格を受け入れることになる。結局、自動車の購入者は、今までより高い価格で購入することになる。自動車関税は米国民にインフレをもたらすことになる。

  ・消費支出の減少にもつながる。米国民の生活を困窮へと招くことに直結するだろう。

 5)(1)個人消費支出の抑制と(2)インフレ加速は、米国経済にとって二重の打撃となりそうだ。
  ・攻撃的なトランプ関税措置は、物価上昇(インフレ)を一段と高める。
 
  ・消費支出が減速の兆しを示す
   ・外食が落ち込み始めた。2月個人消費支出(PCE)は前月比+0.1%増と、市場予想+0.3%増を下回った。
    ・貯蓄率は上昇して、昨年6月以来の高水準になった。
    ・米国経済の下振れリスクが台頭。

  ・物価は上昇
    ・コア価格指数は前月比+0.4%上昇と、市場予想+0.3%増を上回った。
    ・トランプ政権の関税政策は、物価上昇圧力を一段と高める。

  ・3月米国ミシガン大学消費者マインド指数は57.0と、約2年ぶりの低水準。

  ・関税懸念で、長期インフレ予想は+4.1%と32年ぶりの水準に上昇した。
    ・インフレは家計を圧迫、その状況は悪化が進行している。

  ・米国経済はスタグフレーション(景気悪化と物価上昇の同時進行)に陥る可能性が高まっている。

  ・個人消費支出がわずかに増加するものの、コア価格指数は予想を上回る

 6)2026年中間選挙、2028年大統領選・上下院選挙で共和党はボロ負けの可能性
  ・トランプ氏が大統領選挙で勝利した要因は、バイデン政権が犯した「高インフレで生活が苦しめられた」からだ。その生活苦のため、民主党支持者であった黒人のトランプ氏への投票行動がトランプ氏の大統領の返り咲きを決めた。
  ・今度は、その票が民主党に戻ることになる。同様に共和党支持者からも民主党に票が流れるだろう。
  ・そうなれば次の中間選挙で共和党はボロ負けする。現在でも下院では共和党は僅差での多数派に過ぎない。米国下院は民主党が支配することになり、トランプ政権は逆風にさらされ始めることになる。
  ・次期大統領選挙でも民主党候補が優位に立つだろう。次の上院選挙でも共和党が過半数を維持できるか?難しいところだ。

●3.米国2月個人消費支出(PCE)コア価格指数は前年同月比+2.8%上昇(ブルームバーグ)

 1)予想+2.7%を上回る。

●4.トランプ発言で揺れる原油価格、イラン・ベネズエラへの制裁強化で上昇 (JPpress)

●5.米国・カナダ首脳が電話会談、トランプ氏は「生産的」と評価、カーニー氏は「報復関税の用意」と発言(ロイター)

●6.米国、ウクライナに投資計画全ての管理権を要求、欧州など他国排除(ブルームバーグ)

●7.ウクライナのゼレンスキー大統領、過去の米国軍事支援を「ローン」と見なさず(ロイター)

●8.グリーンランドで新連立政権が発足、米国の領有意欲に対抗し団結呼びかけ(ロイター)

●9.ロシア経済特使、マスク氏の火星探査計画向けに小型原発の提供可能(ロイター)

●10.金が再び最高値更新、今年17回目、貿易摩擦懸念で安全資産に買い(ロイター)

●11.米国厚生省、さらに1万人を削減へ、ケネディ長官の大規模改革の一環(ロイター)

 1)最近実施された早期退職勧奨では約1万人が応募しており、これを合わせると厚生省のフルタイム職員は8.2万人から6.2万人程度に減少する。地域事務所も半分を閉鎖すると発表した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/27、上海総合+5高、3,373
 2)3/28、上海総合▲22安、3,351

●2.習指導部、全党へ「八項規定」の学習を指示、再び贅沢禁止訴える(朝日新聞)

 1)習氏が共産党総書記に就任した直後の2012年12月に打ち出した「倹約を励行し、接待を簡潔」など「ぜいたく禁止令」を出し、反腐敗キャンペーンを通じて政敵の粛清をした。今回、再度の「ぜいたく禁止令」となる。

●3.トランプ氏、TikTok買収に向け中国の関税引き下げを示唆(maneyworld)

●4.中国工業部門利益、1~2月で前年比▲0.3%減、民間企業が減益(ロイター)

 1)国有企業の利益は+2.1%増加、外資企業は+4.9%増、民間企業は▲9%減。
 2)根強いデフレ圧力や米国・中国貿易戦争を背景に民間企業の利益が減少した。設備過剰の問題があるところに、今年は関税引上げという要因が加わり、すでに企業に重い負担となっている競争がさらに激化する可能性がある。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/27、日経平均▲227円安、37,799円
 2)3/28、日経平均▲679円安、37,120円

●2.日本株 : 海外短期投機筋の損失覚悟の売りで、日経平均は超下落を予想

 1)3/28、日経平均は▲679円安と大幅下落、トランプ関税への警戒感が継続
  ・米国の高関税政策への警戒で、自動車株を中心に幅広く売られ一時▲935円安の36,864円まで下落した。
  ・前日の米国株安の流れを受けた売りや、前日の配当権利取りで買った筋が一転して売るなど、売りが膨らんだ。
  ・ただ、大幅下落したため自律反発狙いの買いや、売り方の買い戻しも入ったため終盤には下げ渋り、日経平均は終値で37,000円を回復した。

 2)3/31、日経平均は大幅安となる予想
  ・3/28の米国株安を受けて、大幅下落を予想。
  ・トランプ自動車関税25%プラスで、自動車関連企業の業績への悪影響が見込める。
  ・米国経済減速予想で、為替は円高・ドル安の流れに転換すると思われる。したがって、輸出関連企業株は売られる方向になりそうだ。
  ・海外短期筋は、日経平均下落を背景に「株価先物」を買い込んできた。しかし、前営業日の米国株安を受け、買い増してきた株価先物を中心に、損失覚悟で「売り」転換するとみられる。その場合、思った以上の「超大幅下落」となる可能性が濃厚である。

 3)4/1の週の株式相場に注目
  ・トランプ「相互関税」の発表内容に注目したい。
  ・例年通り、海外投資家の現物株投資への買いが入るか?注目。

●3.三井住友海上・あいおい、合併を検討、実現すれば損保業界トップ(NHK)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・3038 神戸物産     業績好調
 ・7269 スズキ      業績好調
 ・8113 ユニ・チャーム  業績堅調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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